11.4. 癌の遺伝的基盤
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癌の原因遺伝子
癌を引き起こすウイルスは、ウイルスの核酸を宿主の染色体DNAに挿入することにより、宿主細胞中に永久的にとどまることができる 現代までに癌を引き起こす遺伝子を含むウイルスが多数同定されている こうした遺伝子が宿主細胞に挿入されると、宿主細胞を悪性腫瘍に変化させることができる 癌を引き起こす遺伝子
発癌遺伝子と癌抑制遺伝子
その後の研究により、ヒトなどの様々な動物の染色体には発癌遺伝子に変化する可能性のある遺伝子が多数含まれていることが示された
発癌遺伝子に代わる可能性をもつ正常な遺伝子
細胞はウイルスに由来する発癌遺伝子の導入、または自身の癌原遺伝子の変化により発癌遺伝子を獲得する
成長因子は細胞分裂を促進するタンパク質などの細胞分裂周期に影響を与えるタンパク質
癌原遺伝子の多くが成長因子をコードしていることが見出された
正常に機能している場合は、細胞分裂の速度が適正なレベルに保持される
成長因子が過剰活性となるなどの誤作動が起こると、細胞の増殖が制御できなくなり癌の発生を引き起こすことがある
癌原遺伝子が発癌遺伝子に変化するときには、細胞のDNAに突然変異が起こっている https://gyazo.com/56ad07185c1e873e9ac6580867df26df
3通りのどの場合も、異常な遺伝子の発現は細胞の過剰な分裂を促進している
細胞分裂を抑制するタンパク質の遺伝子の変化も発癌に関与する
正常時にはコードされるタンパク質が制御不能な細胞の増殖を防ぐ役割を果たす
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正常な生育抑制タンパク質の生産または機能に影響する突然変異は、癌の発生に結びつくことがある
癌の進行
大腸癌の研究により、癌細胞が一人前の悪性腫瘍に発達するためには複数の突然変異が必要であるという癌の発生に関する重要な原理が明らかになっている https://gyazo.com/4a74a5c703a6b7559fc0440e9cda623c
1. 大腸がんの始まりは、突然変異による発癌遺伝子の発生または活性化が起こり、大腸内皮の正常に見える細胞の分裂が以上に増進すること
2. さらに癌抑制遺伝子の不活性化などのDNAの変異が起こり、大腸壁に小さな良性の腫瘍(ポリープ)が生じる
3. さらに突然変異が加わって、最終的には転移する能力を有する悪性腫瘍が形成される 悪性腫瘍の発生過程には、癌原遺伝子の発癌遺伝子への転換や癌抑制遺伝子の不活性化などの突然変異の段階的な蓄積が伴っている
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悪性腫瘍の発生には通常は4つ以上のDNAの突然変異が必要であることから、癌の発生には長い時間が必要であることが説明できる
「遺伝」する癌
発癌に結びつく突然変異の大部分は、癌が発生する大腸などの臓器に起こる
こうした突然変異は卵や精子を生成する細胞に影響を与えないため、両親から子どもへと伝わることはない
しかし、時として発癌に結びつく突然変異が配偶子を生成する細胞に起こり、世代を超えて伝わることがある
しかし、こうした突然変異を受け継いだ人でも影響を受けやすい臓器にさらに突然変異が加わらなければ家族性の癌も発生しない
最もよく研究されている癌遺伝子の1つがBRCA1遺伝子 正常型の対立遺伝子には癌抑制タンパク質がコードされている
BRCA1遺伝子の特定の対立遺伝子は乳癌に関連している 米国人女性の10人に1人は乳癌に冒されるが、特定の突然変異があるBRCA1遺伝子を持つ女性は、乳癌および卵巣癌にかかる危険性が高くなり、生涯に癌が発生する確率が80%を超える 最近、BRCA1遺伝子の突然変異を検出する試験法が開発された
しかし、この突然変異を含むBRCA1遺伝子をもつ女性にとって、現在適用できる予防法が乳房および卵巣の外科的な切除しかないため、この試験法は限定的にしか利用されていない
発癌のリスクと癌予防
大部分の先進工業国では癌は心臓病に次ぐ死因の第2位を占めている 日本は1位
ある種の癌の死亡率は近年になって減少しているが、癌全体の死亡率は依然として上昇しており、現在のところ10年に1%程度の上昇率
癌の原因となる物質
大部分の癌の突然変異は、長年にわたる発癌物質への接触の結果として起こることが多い
皮膚癌を発症することがあり、なかには黒色腫とよばれる致死性の高い皮膚癌もある 最も癌の発生件数が多く、関連する癌の種類が多い発癌物質の1つがタバコ 2008年に16万人以上が肺癌により死亡しており、他のどの部位の癌よりもも死亡数が多い
副流煙による受動喫煙でも発癌の危険性がある
タバコはアルコール消費との組み合わせも含めて、多くの部位の癌の原因となる
煙を出さないタイプの嗅ぎたばこや紙タバコも口腔や咽頭の癌に関連している
致死性の高い発癌物質への接触は個人的な選択の問題であり、喫煙、飲酒、長時間の日光浴などの発癌の危険性の高い生活習慣はすべて回避することができるもの
ある種の食物の選択が、個人の発癌の危険性を大幅に減少させることを示す証拠が次々に得られている
食物繊維を毎日20~30g接種するとともに動物性脂肪の接種を減らすことは、大腸がんの発生を防ぐのに役立つ